関数体の数論
2023年度の八王子数論セミナーのノートをまとめる.(以下は初日と二日目の分)
最初は, \(A:=\mathbb{F}_q[t], K:=\mathbb{F}_q(t) , \mathbb{C}_\infty:="\overline{\mathbb{F}_q⦅1/t⦆}の(1/t)進完備化"\)としたとき, \(e_n(x):=\prod_{f \in A(d)}(x-f)\)というものを考えるところから始まった.
ここで, \(A_n(d)\)は次数がd未満の多項式全体の集合とした.
これは, 後々Carlitz exponentialとうまく対応してくるものである.
Moore discriminantの性質から,
$$ e_(x)=\Delta(1,t,\ldots,t^{n-1},x)/\Delta(1,t,\ldots,t^{n-1})=\sum_{k=0}^{n}(-1)^{n-k}\frac{D_n}{D_kL_{n-k}^{q^i}}x^{q^i} $$
ここで,
$$ [k]:=x^{q^n}-x, D_n:=\prod_{k=1}^n [k]^{q^{n-k}}, L_n:=\prod_k [k] $$
として定義した. この\(e_n(x)\)の代わりに,
$$\tilde{e}_n(x)=x\prod_{f \in A(n)-\{0\}} (1-x/f)=\sum_{k}(-1)^k\frac{L_n}{D_kL_{n-k}^{q^k}}x^k$$
を考えるが, この係数\(L_n/L_{k}^{q^{n-k}}\)の記述に関して,
$$L_n/[1]^{(q^{n}-1)/(q-1)}\times {[1]^{q^{n-k}-1/(q-1)}/L_{n-k}}^{q^k}\times [1]^{q^{k}-1/(q-1)}$$
と書け, \(L_d/[1]^{(q^d-1)/(q-1)}=\prod_{k=0}^{d-1} (1-[k+1]/[k])\) であり, これがprincipal unitとなる.
そこで\(d \rightarrow \infty\)を考えることができるが, この極限を\(s\)ととれることを踏まえて, 計算をすることで以下がわかる.
$$ \tilde{e}_C(x):=\lim_n \tilde{e}_n(x)= 1/s \sum_{k} (-1)^{k}[1]^{(q^{k}-1)/(q-1)}\frac{(sx)^k}{D_{k}x^{q^{k}}} $$
これはCarlitz exponential
$$e_C(x):=\sum_k x^{q^k}/D_k$$
を用いることで, 次のような関係式が満たされることがわかる.
$$\tilde{e}_C(x)/x=e_C(\tilde{\pi}x)/\tilde{\pi}x$$
この, \(\tilde{\pi}\)というのはCarlitz周期と呼ばれるものであり,
$$\tilde{\pi}=s(-[1])^{1/(q-1)}$$
として定義される. これによって,
$$e_C(x)=x\prod_{0\neq l\in \tilde{\pi}A}(1-x/l)$$
という無限積表示が得られることがわかる. また, ここで得られた公式,
$$\tilde{e}_C(x)/x=e_C(x)/x$$
の辺々に対数微分\(z(d/dz)\)をとることで, Carlitz zeta
$$\zeta_C(k):=\sum_{f:monic \in A}1/f^k$$
に関するEular関係式が得られる.
次に, Carlitz加群の構成を行おう.
簡単な計算によって, 任意の\(a\)に対して, ある\( C_a \in K\{τ\} \)が取れて, (τはq冪のオペレーターで、K{τ}でK係数のオペレーターのなす非可換環とした.)
$$e_C(ax)=C_a(e_C(x))$$
が成立する. 特に\(a=t\)では簡単で以下のように書ける.
$$ C_{t}=t+τ$$
ここで, できる\(A \hookrightarrow K\{τ\}\) という \(\mathbb{F}_q\)-lin をCarlitz加群といい, これによって, 自然に\(\mathbb{C}_\infty\)に\(A\)加群の構造が入る.
このようにして, あたかもリー代数とリー群を\(exp_{G}\)がつないでいるように, \(A\)と\(\mathbb{C}_\infty\)を\(e_C\)がつないでいるのである. 無限積の表示から, \(e_C\)は\(\tilde{\pi}A\)に関して周期的であるので, Carlitz加群の等分点として
$$C_{tors}:=\{e_C(f\tilde{\pi})|f \in K\}$$
で考える. 感動的なのは, \( K \)の任意の代数拡大\(L\)に対して, \(L(C_{tors})/L\)がアーベル拡大であることである. また, \(C_a(τ)=\sum_{k=0}^dC_a^{(k)}(τ)^{k}\)としたとき, \(C_a^{(k)}\)に関する漸化式が $$C_aC_t=C_tC_a$$ という関係式から導出される. 次に, \(e_C\)の逆に関して, 形式的に構成することができ, これをCarlitz logarithm という. (この係数は\(e_C(tx)=te_C(x)+e_C(x)^{q}\)から一意に定まる. ) 形式的に計算することにより, $$log_C(x):=\sum_{k}(-1)^kx^{q^k}/L_k$$ とわかる. この収束半径は, $$-\frac{1}{q-1}$$ と計算できる. このようにして, \(e_C,log_C\)が定義できたので, \( x^a=e_C(a\log_C(x)) \)のようなものを考えることができる.
(定義)
\(E_j(z)\)という\(\mathbb{C}_\infty \rightarrow \mathbb{C}_\infty\)を $$e_C(z\log_C(x))=\sum_{k=0}E_k(z)x^{q^k}$$ によって定義する.
この\(E_j\)というのは, 簡単な計算から\(r^j\)次の\(z\)に関する多項式であり, \(F_q\)線形である. さらに, \(z=a \in A\)を代入すれば $$E_j(a)=C_a^{(j)}$$ であることがわかる. ここで, \(E_j(z)\)に関する著しい性質として, $$E_j(z)=e_j(z)/D_j$$ が成り立つことである. (辺々の零点と, \(z=t^{q^j}\)を代入したものをみればわかる. )
(3日目)
今日は, Drinfeld加群の性質やt-moduleに入った.
\( \iota:A \rightarrow L\)
という\(F_q\)上の体Lへの準同型を固定する. (LはA-fieldという. \(\iota(t):=\theta \)とする. )
定義
\(d\ge 1\)として, d次元t-module とは\(F_q\)代数の準同型で
$$\Phi: A \rightarrow M_d(L{τ}) $$
であり,
$$ \Phi(t)=(\theta I_d+N)τ^{0}+(higher terms) $$
となるもの. ここでNは冪零であるとした.
以下,
$$\partial \Phi:=\theta I_d+N$$
とする.
このd=1の場合をDrinfeld加群という.
これにより, \(L^d\)はA加群として考えられる.
これは, Carlitz加群の自然な拡張を与えているが, 問題は, 一意化が存在するかどうかである.
しかし, \(L=C_\infty\)の時にはExpの存在は知られている.
つまり, 次のことが知られている.
(命題)
$$Exp_\Phi:C_\infty^d \rightarrow C_\infty^d$$
という\(F_q\)線形な, \(M_d(C_\infty)\)係数のべき級数がとれ,
\(\partial \Phi(a)\)倍が\(Exp_{\Phi}\)を介して\(\Phi(a)\)倍を誘導する.
この\(Exp_{\Phi}\)の核は有限生成かつ離散な\(\partial \Phi(A)\)加群であり, そのランクを\((\Phi,C_\infty^d)\)のランクという.
また, \(Exp_{\Phi}\)が全射であるときに一意化可能であるという.
(Drinfeld加群では常に一意化可能であることが知られる. )
このt-moduleのmotiveのようなものとして生じるのがt-motiveである.
(定義)
\(L\{τ\}[t]\)加群で, \(L\{τ\}\)加群として有限生成かつ自由であるものMが, t-motiveであるとは,
$$(t-\theta)^lM ⊂σH$$
以下では, この\(L=C_\infty\)の場合を考えていく.
特に, アーベル多様体の一意化の類似を考えるために, t-motiveがabelianであることを,
L[t]加群として階数有限な有限生成自由加群となることと定義し, r(M)でその階数として定義する.
トーラスがアーベル多様体になるには, Rieman計量が存在することが必要であったが, このabelian t-motiveに対しても同様のことが知られている.
アーベルなt-motive \(M\)に対して,
Mの\(C_\infty[t]\)加群の基底をMとし,
この基底に関するτの表現行列\(\Theta\)とする.
この時, アーベルt-motiveがRigid analytically trivial であるとして,
$$\gamma=\gamma^{(1)}\Theta$$
がある, \(\gamma \in GL_{r(M)}(C_\infty<t>)\)に対して成立することとする.
\(\gamma\)をRigid analytic trivializationという.
Andersonは, Rigid analytic trivialなt-motiveに付随するt-moduleは一意化可能であることと同値であることを示した.
次にdual t-motiveについて進んだ.
\(L/F_q\)を完全体として,
$$σ: x\mapsto x^{1/q}$$
というオペレーターを考える.
これに関して,
$$*: L\{τ\}[t]\simeq L\{σ\}[t]; \sum c_nτ^n\mapsto \sum c_n^{(-n)}σ^n$$
というdualな同型がある.
dual t-motiveもt-motiveと同様にして定義することができる.
(定義)
左\(L\{σ\}[t]\)加群Hで, \(L\{σ\}\)加群として階数有限な自由加群で,
$$(t-\theta)^n ⊂σH$$
が十分大きなnに対して成立する時に, Hをt-motiveという.
t-motiveのアーベルである条件に対応するものが,
A-finiteというものであり, 次のようにして定義する.
(定義)
Hがdual t-motiveとして, これがA-finiteであるとは,
Hが\(L[t]\)加群として階数有限で有限生成であり, 自由であることとする.
このdual t-motiveを考える理由として, 先に見たt-moduleとt-motiveの間のanti-equivな圏同値が
圏同値となることである.
以下で, それを見る.
まず, *の拡張を次のようにする.
$$*:M_{m\times n}(L\{τ\}) \mapsto M_{m\times n}(L\{σ\}); (M_{i,j})\mapsto (M_{i,j})^{*}:=(M_{j,i}^{*})$$
この時, Dual t-module \(\Phi, \mathbb{G}_a^n)\)に対して,
$$H(\Phi):=Mat_{1\times n}(L\{σ\})$$
\(L{σ}[t]\)加群としての, この\(H(\Phi)\)の構造は
\(ct^n\)で\(c\in L{σ}\)に対しては, そのまま合成して, \(t^n\)の部分は\(\Phi(t^n)^{*}\)で引き戻しをすることで作用を定義できる.
これが圏同値を与えている.
このdual t-motiveの世界でのRigid analytic trivializationについて考える.
dual t-motive HがA-finiteであるとして, hを\(L[t]\)-basisとする.
この時, \(σ\)の表現行列行列\(\Phi\)が取れて,
$$\Psi^{(-1)}=\Phi \Psi$$
となる, \(\Psi \in GL_{r}(C_\infty<t>)\)が存在する時, \(\Psi\)をRigid analytic trivializationという.
(このRigidは淡中圏としてのRigid.)